text= 佐藤可奈子
数回にわたってレポートしている花畑団地のリノベーション。
団地内でも特にナイスロケーションにある27号棟が
「団地再生デザインコンペ」の最優秀賞案をもとにリノベーション中とお伝えしたのが前回。
それがついに完了したと聞いて、早速そのお部屋を拝見してきました。


壁と天井に囲まれた屋内感のあるルームテラスが全戸に。写真はBタイプの住戸。

使い方いろいろ。「部屋のような外」がある1LDK

突然ですが、私が今住んでいる家にはバルコニーがありません。
そのせいか、バルコニーとか、ルーフテラスとか、庭とか、外部空間がある家に憧れています。
もしも、広い外部空間を持つ家に住めたら……?
あんなことやこんなことをしてみたいと、妄想を繰り広げています。
リノベーション後の27号棟の住まいは、そんな私の願望をグイグイ刺激してくるものでした。

1フロアに2戸展開で5階建て、全10戸の住戸のプランは1LDKと1DK。
なんとすべての住戸に、ほぼひと部屋分の広さのルームテラスが付いています。

これは、もともと部屋だったところの窓を撤去して屋外化してしまったもの。
とはいえ、天井があり、垂壁や袖壁も残されているので、その居心地はさながら屋内。
外なのに部屋のような籠り感がある、不思議な場所です。

グリーンでいっぱいにしてもいいし、テーブルとベンチを置いたり、デッキチェアなんかも良さそう。
野菜やハーブを育てたり、天気がいい日はランチ、風呂上がりにビール。なんてシーンも楽しめちゃいます。
ただLDKが広かったり、部屋数が多い場合には、その形に暮らし方がフィットしないと持て余してしまうけれど、いかようにも使える“部屋のような外”がある住まいは、さまざまな暮らしのシーンを想像させてくれます。


バルコニーとルームテラスがひと続きになっているAタイプの住戸。

LDKの一角に、2方向に開口したルームテラスがあるBタイプの住戸。

Cタイプの住戸は対面キッチンのLDKと中庭感覚のルームテラスがある。

LDKの一角が個室にできるDタイプの住戸。ルームテラスは浴室の隣にある。

目前には広場があり、花畑団地の中でも特に抜けのある眺めを楽しめる27号棟。
1DK・1LDKのプランには合計4タイプがあり、それぞれでルームテラスの位置や形が異なるため、
階数や住戸の向きごとに異なる景色が楽しめます。

Aタイプは、DKに面して、バルコニーと一体化したルームテラスがあるプラン。
こちらは1階の2住戸で、そのまま外に続いていくような感覚が楽しめます。
Bタイプは、2方向に開口があるルームテラスがLDKと一体になったプランで、開放感が高め。
Cタイプは住戸の真ん中部分にバルコニーと連続するルームテラスがあるプランで、
カウンターキッチンからルームテラス越しに外が眺められます。
Dタイプはちょっと変わり者。浴室と洗面脱衣室に面してルームテラスがあり、
LDKの一角に引き戸で仕切る個室があるプラン。

居室との関係性によって、ルームテラスの使い方はいろいろと変わってきそうです。
ルームテラスだけでなくバルコニーもあるので、こちらの使い道も思案したいところです。


室内からの眺め。広場で遊ぶ子どもたちの微笑ましい光景が、木のフレームの中に映し出される。

開放的なのに落ち着く、眺めの良い籠り部屋

ゆったりと配置された建物、敷地内に植えられたたくさんの緑、たっぷりの陽当たりに、広がる空。
花畑団地は、他の団地と比べても、特にのびのびとした環境が魅力の団地です。

そんな花畑団地では現在、「花畑団地 団地再生プロジェクト」が行われており、
敷地内の広場や緑道の整備、集会所の建て直しなどが進行中。
その目玉プロジェクトとして実施されたのが、27号棟のリノベーション案を募る「団地再生デザインコンペ」。
同コンペで最優秀賞に輝いたCamp Design inc. 藤田雄介さんの案が今回のリノベーションプランのもと。
藤田さんの案は、花畑団地のこの豊かな外部環境を、住まいの中に取り入れるべく導かれたものでした。

3Kだった住戸のひと部屋をルームテラスにしてしまうという思い切ったプラン。
当然、居室面積は減ってしまうので、狭く感じちゃうんじゃない……?
といった不安もあったのですが、室内のその開放感に驚き。
ガラスの引き戸で仕切られたDK・LDKとルームテラスがひと続きになって、空間が広がります。
ただでさえ角部屋の二面開口であるところにルームテラスも加わり、風景がパノラマのように展開します。

広々として開放的な空間なのに、こちらも不思議な籠り感が。
そんな気持ちにさせている要因は木製サッシ。
普通のアルミや樹脂のサッシだったら味気なさすぎて気にも留まりませんが、
味わいのある木製サッシが窓辺を主張して、自然とそこに目線が誘導されます。
そして木枠が窓外の景色をフレーミング。額縁におさめた写真のようにその眺めの豊かさを強調しながら、
同時に内外の境界を明確にして、「内側に居る」安心感も与えてくれるのです。

室内で撮影をしていたら、近所の子どもたちが広場で遊び始めました。
木枠の窓越しに見えるその様子は、団地のレトロな風景と相まって、まるで映画のワンシーンのようでした。

「内のような外」と「外を感じる内」が一緒になった“眺めの良い籠り部屋”は、
花畑団地のランドスケープを存分に堪能させてくれそうです。


外はとても冷たい風が吹いていたのですが、室内には燦々と日が差し込み、ぽかぽか。

見た目が良いだけじゃない木製建具

今回のリノベーションでは、外部に面したほとんどの窓のサッシが木製サッシに変更されています。
昭和30年代に建てられた当時、花畑団地のサッシはすべて木製だったそうです。

室内からの眺めを引き立たせることにも一役買っているこの木製サッシは、
レトロな風情を漂わせつつも、その性能は最先端。
本来の断熱性に加え、気密性の高いつくりになっており、
見学時は雪が降るかも?と言われていたほどの寒さだったのですが、室内があったかい!
これだけ開口部がある部屋なのに、エアコンオフ状態でこの暖かさ。
逆に、夏は外からの熱気を遮ってくれるでしょう。

団地の陽当たりの良さも、この暖かさの理由のひとつ。
もともとどの住棟、住戸にも一定の陽が当たるように計画されている団地。
細かく室内を仕切っていた間仕切りがなくなった分、その豊かな日差しが住戸内にくまなく差し込みます。
今回のリノベーションで、豊かな敷地環境や日照といった団地本来の魅力も再生されたのです。

ナチュラルホワイトに塗り直された外観にぬくもりを与えている木製サッシ。
今は周囲の樹々の葉が落ちてしまっていますが、緑豊かな季節になったら、周囲の風景によく映えそう。
入居者がルームテラスをどう使うかによって、窓辺が彩られていく様も楽しみです。


入居開始へ向けて外構の整備が進む27号棟。木製サッシの窓辺が外観にもやわらかさを与えています。

「ウチ」だけじゃなくて「ソト」も楽しい

住戸の広さはルームテラスを含んで46m²。
ひとり暮らしにも、夫婦2人暮らしにも、小さなお子さんがいるファミリーにもフィットしそうです。
全面リノベーションされているので、キッチンも水廻りも新しくキレイ。
細かいけれど、3口グリル付きのガスコンロが付いているのは高ポイント。
あと、リノベーション前からそうなのですが、浴室に窓があるのもうれしい。
洗濯機置き場も家事導線のいい場所に配置されており、大胆に見えてしっかり暮らしやすそうな間取りです。

賃料は71,600円~74,400円の予定。
入居についての詳しい情報は、UR都市機構の花畑団地のページで公開されます。
今回の募集で申し込みができるのは、2014年3月15日(土)から3月23日(日)までなのでお見逃しなく。

花畑団地

花畑団地の最寄り駅は、日比谷線や半蔵門線へ乗り入れする東武スカイツリーライン・伊勢崎線の「竹ノ塚」駅と「谷塚」駅。
つくばエクスプレスの「六町」駅も利用可能。
「竹ノ塚」駅からは始発電車も運行しています。
花畑団地から上野までほぼ1本道で10km強と、都心まで自転車で行くこともできちゃうらしい。

花畑団地のすぐそばにもスーパーやドラッグストアがありますが、敷地内にも新たな商業施設ゾーンがつくられている真最中。
「竹ノ塚」駅前には大型商業施設のほかに複数の商店街もあって、お買い物が楽しそうです。
ルームテラスやバルコニーを緑でモサモサにしたい人のための園芸店も近隣に充実しています。


周辺には公園がたくさん。畑や原っぱもあったり。竹ノ塚駅周辺の商店街など、気になるお店もチラホラ。

ただでさえ団地内が公園のような環境なのに、周辺にはたくさんの公園や緑地が点在しており、
休日にお買い物がてら、近隣の緑スポットを自転車で回ってみるのもオススメです。
取材のために何度か花畑を訪れた際にレンタサイクルを利用したのですが、自転車で街中を走っていると、
畑付きの農家やレトロな喫茶店、年季が入った商店や町工場など、昔懐かしい風景にもたくさん出会いました。
あと、街を見ていると若いファミリーが多いのが意外でした。
緑もあるし、静かだし、商店充実してるし、物価安いし。確かに住みやすそう。若い単身者も多いそうです。

花畑団地を知るまで、この近辺にはあまり行ったことがなかったのですが、
街ののんびり感と、昭和レトロな街並、庶民派な雰囲気は、訪れる度にジワジワきます。

家に居ながら外を感じて過ごすのも楽しそうだけれど、この街は、ついつい外に出掛けたくなるような魅力も秘めています。
豊かな暮らしを送るには、「ウチ」だけじゃなくて「ソト」も豊かじゃないとね! ということで、
リノベーション後の花畑団地を見て、外部空間のある住まいへの私の憧れは一層高まったのでした。

関連リンク:
花畑団地 団地再生プロジェクト

Camp Design inc. 花畑団地27号棟プロジェクト現場レポート

【連載】進行中!花畑団地のリノベーション
第1回 参加者募集! tokyobikeで自転車ツアー!?
第2回 若手建築家による団地イメチェン計画
番外編 tokyobike自転車ツアー・レポート
第3回 遂に完成!「眺めの良い籠り部屋」