text= 安田洋平(東京R不動産/Antenna.Inc)/photo= 杉浦貴美子
団地の面白い住み方・使い方を僕らの目線で考えてみる「団地オモシロアイデア会議」を、一年の中でも一番気持ちいい季節に、西東京市のひばりヶ丘団地で実施しました(5月12日・日曜)。そのときの模様をレポートします!

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団地で待ち合わせ

団地をどうやって使い、住むのが面白いのか? 今後どんな団地があったらいいか?僕たちは、僕たちにとって団地がこれからもリアルな住空間であるために「団地オモシロアイデア会議」なるイベントを団地のなかで行うことにした。

団地R不動産のサイトから参加者を募り、当日は25人が集まった。
今現在団地に住んでいるという人から(中には生まれてこのかた団地にしか住んだことのないという人もいた)、実家が団地でそこで生まれ育ったという人、これまで団地に住んだ ことはないが、他では得られない住環境の良さに興味を持って参加してみたという人、住みかというよりむしろホームオフィス的な利用に可能性を感じているという人まで。また20代になったばかりの建築学生から、40代後半の社会の中堅的な人までがいた。しかしまた、すぐに打ち解けそうな親しい空気がそこにはあった。

緑と一体化したような団地の中を歩く

今回の会場として選んだのは、西東京市にあるひばりヶ丘団地。昭和34年(1959年)、マンモス団地が日本で作られ始めた当初、その代表格とも言われた団地だ。 建てられた直後には、天皇陛下夫妻(当時は皇太子・皇太子妃)も視察に訪れたという。『団地への招待』という、当時日本住宅公団が団地ライフのプロモーション用につくったビデオで登場するのもここの団地である。昭和30年代にしかつくられることのなかった、「スターハウス」が保存されていたりと、昔の面影が今も残っている。また50年余の長い歳月によって樹木も大きく育ち、団地の敷地内はまるでジブリの映画にでも出てきそうな深い緑の光景だ。だがその一方では、広い敷地の半分では建て替えの工事が日々進められていて、新築の住棟が1つ完成すれば緑と一体化したかのようなそうした昔の住棟がまた一区画建て壊される、といったサイクルの中にあることも見過ごせない事実である。古い団地は壊されることを待つのみ、現在は人は住んでいない。

イベント当日はこれ以上ないという最高の五月晴れに恵まれ、まず僕たちは敷地内をツアーすることにした。UR都市機構の人に案内を頼み、空き状態になっている古い団地の建物をいくつか見学させてもらう。
建物を上から見たときの様子が星の形に似ているという理由からそう呼ばれるようになったという、スターハウスの内部見学はおそらくほとんどの人にとって初めての体験だっただろう。下から見ると三角の形になっているスターハウス特有の螺旋階段を、参加者たちはこぞって珍しそうに写真に収めていた。室内は、二方向に抜けた窓とそこに飛び込んでくる緑が印象的だった。     
庭付き戸建を横につなげて 長屋状にした低層団地「テラスハウス」なども見た。テラスハウスは、居間の掃き出し窓をガラガラと開けてそのまま坪庭に出られる感じがたまらない。ここに人が住んでいた頃の光景を思わず空想した。

ほぼピクニック

それにしても、どこまでも続く緑の敷地内を散策していると、ツアーというより遠足のような気分すらしてくる。ひととおり見たところで、僕らは鬱蒼とした葉が涼しい木陰をつくる、住棟前の原っぱのようなスペースに巨大なピクニックシートを広げて、そこで美味しいケータリングのランチをみんなで食べた(今回ケータリングのフードを手がけてくれた駒場東大前のビストロ「PEACE OVEN」さん、ありがとう!)。5月の風が葉を揺らし肌にあたる。こんな気持ちの良い環境で食べる食事は最高だ。今ちょうど団地住まいという、参加者のひとりが言っていた。「3~5月の団地は天国ですよ」。

午後からの会議に供えて、前もって団地を体感しておいた方がいいだろうという目的で行った団地内散策とランチだったが、結果的にこれ以上ないインプットだったのではないだろうか。団地見学といい、このランチタイムといい。唯一無二の環境を満喫したのだった。