text=北澤潤(北澤潤八雲事務所) photo=伊藤友二
第2回の宿泊日はもうすぐ。井野団地ホテルマンの準備は万端です。


井野団地の「いこいーの+Tappino」で活動するホテルマンたち。

不思議な地域活動

井野団地のホテルマンたちは、毎週土曜日にあつまって次の宿泊客がやってくる9月14日(土)に向けてせっせと準備をすすめていた。1週間のうち6日は普段の生活をしていて週末の1日だけ「ホテルづくり」に取り組んでいるということになるのだが、考えてみたらこの習慣はなかなか不思議である。どこにでもある地域活動サークルのようでありながら、その内容は「ホテル」をつくること。とっても非日常的なコトをごくごく日常的につくり進めている。

この物語の主人公は何人もいる

ホテルマンの活動をレポートしているブログサイト「井野団地ホテルマン日記」に、つい先日「ホテルマン紹介ページ」が加わった。ここに名を連ねている年齢層さまざまな23名がサンセルフホテルのホテルマンであり、この物語の主人公たちである。なんと、春に宿泊客としてサンセルフホテルに泊まった親子が今ではホテルマンとしてメンバーに加わっている。こんな風に予想外に関わる人が増えたりしながらホテルマンの顔ぶれは少しずつ変わっていくのだろうと思う。


第2回宿泊に向けてアイデアを出し合うホテルマンたち。

アイデア次第の創作ホテル

第二回となる宿泊日に向けてサンセルフホテルも変化しようとしている。ホテルマンひとりひとりが考えた新しいインテリアやルームサービスのアイデアを並べて、みんなでその中から準備するものを選んでいった。「扇風機」や「花びん」「靴箱」など足りてなかったモノもあれば、子どもホテルマンが考えた「お化け屋敷」や「富士山」といった奇抜な発想も。ふと私が気になった「コップで演奏会」というアイデアは、大人ホテルマンの添田さんが考えたものだった。添田さんはいつも面白い案を出してくれるので、ホテルマンたちの間では密かに「アイデアマン」という称号で慕われている。


子どもホテルマンたちの発想が微笑ましい。

アイデアマンの添田さんも負けていない。これは「ミニ太陽」を試作しているところ。

サンセルフホテルの三本柱

新しくつくるものが決まってからはチームごとに活動が進んだ。サンセルフホテルには今のところ3つのチームがある。

宿泊客の接待をする「コンシェルジュチーム」は、ホテルマン全体のまとめ役。宿泊日当日のタイムスケジュールを考えたり、井野団地の中で日当りの良い場所を探して蓄電散歩のルートを計画したりしている。いつも娘の愛梨(あいり)と一緒に活動に参加しているコンシェルジュの矢口さんは、電気工事士の資格を持っているのでソーラーワゴンのメンテナンスもお手の物だ。


ソーラーワゴンの修理をするコンシェルジュチームの定塚さん(左)と矢口さん(右)。

「ルームチーム」は客室に必要なインテリアを用意し、綺麗にセッティングする客室担当。和装でお客様を迎えてくれる女将の片山さんもルームチーム。客室の素敵なお茶セットは、実は片山さんのお家からやってきたものだったりする。


お客様用の浴衣を手作りするルームチームの片山さん(左)と塚田さん(右)。

料理上手のホテルレディーたちによる「コックチーム」は、お客様に提供する食事をつくるチーム。メンバーの1人の長谷川さんはサンセルフホテル特製メニューを次々と開発中。前回の「いのようかん」につづき、第二回ではどんなメニューが出てくるのだろうか。


ディナーを試作中のコックチーム。長谷川さん(右)のサンセルフホテル特製メニューは斬新。

それから3つのチームの他に忘れてはいけないのが「太陽部」の存在。各チームから男性メンバーが集まって、あの夜空の「太陽」をあげるために力を合わせるのだ。「太陽」がうまく光るかどうかは彼らの手にかかっている。


特設フロントの配置を確認している「太陽部」のホテルマンたち。

お天道様に祈る

準備は着々と進み、あとは宿泊客がやってくるのを待つばかりである。週間予報では、9月14日(土)の取手の天気は曇り時々晴れ。少しでも晴れてくれないと「客室」も「太陽」も真っ暗だ。これほどまでに天気に左右されるホテルは他にないだろう。果たして本物の太陽はちゃんと光ってくれるだろうか。こればかりはいくら「太陽部」でもどうしようもない。お天道様に祈るほかない。

 

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北澤 潤八雲事務所

【連載】サンセルフホテル物語
第1回「ウソのようなホントの話」
第2回「うわさのしわざ」
第3話「ホテルマンたちの日常的非日常」