text=大我さやか(OpenA ltd.)
このコラムでは、「京都堀川団地リノベーションプロジェクト」を数回にわたって紹介していきます。1950年初めに建てられたレトロ団地が、アトリエやギャラリー、ショップなどになる?

アーティストが集まる団地にできないだろうか?


堀川通沿いに昭和の面影を残す堀川団地。

「下駄履き住宅」という言葉をご存知だろうか?
1階が店舗で2階から上が住居になっている団地や集合住宅の形式を指す呼称だ。1階店舗区間は柱や梁などの構造体のみのがらんどう、いわゆるスケルトン状態の空間となっており、その様子がまるで下駄のように見えることからそう呼ばれるようになったらしい。その下駄履き住宅モデルの初期の団地が、京都市にあるこの堀川団地だ。

現存する堀川団地は、全部で6棟。南から椹木町団地、下立売団地、出水団地、上長者町団地という具合にいくつかの建物が点在していて、これらを総称して堀川団地と呼んでいる。

築60年を超えるこの堀川団地は老朽化がかなり進んでいるため、今回耐震補強や設備の更新など、大規模な改修が出水団地第1、2棟で行われることとなった。
 
「この堀川団地を、若いクリエイターやアーティストが集まる魅力的な団地にできないだろうか?」

そんな突拍子もなく漠然としたオーダーから、このプロジェクトは始まった。依頼主は、この団地のオーナーである京都府住宅供給公社だ。

「え? この傷んだ団地を? どうやって?」
始めは正直そう思った。どうしたらここが若者にとって魅力的な場所になるというのだろうか? でも、そのヒントを探すためにここを訪れるたび、私自身がこの団地や街の魅力に取り憑かれてしまうことになる。

「商売」が一緒にある面白さ


「堀川商店街」と書かれたアーケードの入口。この先に懐かしい風景が残っている。

そんな堀川団地は京都御苑の西側、堀川丸太町の北にある。
(地図情報)http://goo.gl/maps/oGYIS
堀川丸太町の交差点から北へ歩くこと数分、通りの左手にはちょっとくたびれた淡いクリーム色をした3階建ての建物が現れる。ここから600mほどにわたり点在しているのが、堀川団地だ。

アーケードの入口には「堀川商店街」という赤いサイン。一歩足を踏み入れれば、そこは昭和の空気が漂う懐かしい店構えの商店街だ。建設当時からここで商いを営んでいる商店や、ここ数年でオープンしたお店まで新旧さまざまな店が軒を連ねている。


食料品店に、名曲堂、金物屋、和小物屋、食堂や文房具屋、ふとん屋、洋服店など、多種多様な店が軒を連ねる。

実は、この堀川商店街は、戦前にこの地域で一番栄えた「堀川京極」商店街の流れを受け継ぐ歴史ある商店街なのだそうだ。京都で京極といえば、四条河原町にある新京極を思い出すが、かつてこの地は「東の新京極、西の堀川京極」と呼ばれるほど、京都の中で最も栄えた歓楽街の1つだったという。そこには250軒もの店が軒を連ね、映画館やビリヤード場、喫茶店など、最先端の店が並び、たくさんの買い物客で賑わっていた。


商店街のお祭り。団地の住民だけではなく地域や京都内外から客が訪れ、街中が盛り上がる地域の行事だ。

そんな賑わいの面影を今に残しているのが、毎年春と秋に開催されている「堀川まつり」だ。店の前には屋台が並び、周辺地域からの人出で大いに賑わうという。焼き鳥やわたあめ、うどん、駄菓子など、商店街の品々が並び、1年で最も賑わう日だ。今年2013年は5/24、25と10/4、5に開催されるそうなので、祭り提灯が並ぶ、ちょっとレトロなお祭りの空気をぜひ味わってみたいと思っている。

歴史ある街の新しいカルチャー


堀川団地の西側、西陣のエリアにちらほら残っている古い町家は、こぢんまりとした京都らしいほっこりカフェやショップに。

周辺にも目を向けてみよう。この堀川団地の西側は、西陣というエリアで、京都の伝統産業「西陣織」を支える職人街だ。
着物屋や和装屋など、西陣織の中心地としての文化が残る一方で、住宅街でもあるこの一画には、京都の古い町家がちらほらと残っていて、センス良くリノベーションされ、小さなカフェやショップ、ギャラリーなどになっているのを目にすることができる。

街にはキラッと宝石のように光る魅力的なお店が散りばめられていて、ちょっと歩けばこんな店、あんな店、というように歩いて回るのが楽しくなってしまう。古くからの産業や商売と、若い世代のエッジの効いたカルチャーが混ざり合う雰囲気は、東京の東側エリアでも最近注目を集めているが、それと共通する空気をこの西陣にも感じることができる。

「住む」と「働く」をミックスする


堀川団地や西陣の街が残すいい時代の空気をそのままに、リノベーションを検討中。

この団地や街の固有の文化性は、住む場所と働く場所、商売が近くにあることだ。その中で、この堀川団地をどうリノベーションすると面白くなるだろうか。ひとつは、住むところと働く場を一緒にしてみるというアイデア。住む場所がアトリエになったり、ショップになってもいいのではないか?
シーンに合わせて自分が思うように空間の使い方が自由に変えられるといい。
昔からこの街で営まれてきた、西陣織の工場や商店と住宅が一緒になっている暮らし。そのフォーマットがあったからこそ、この街に独特な面白さやクリエイティビティー、カルチャーが育まれているのだと思う。

今、そんな思いでリノベーションのプランを考えている。次回は、ボロボロだけど味のある、この建物の面白さをレポートしたいと思っている。

京都府住宅供給公社 堀川団地再生まちづくり特設サイト

【連載】京都堀川団地リノベーションプロジェクト
第1回 京都にある築60年超のRC造・下駄履き団地のリノベーションプロジェクトが始動します!
第2回 気になる団地の中を覗いてみた
第3回 「内装を自由にいじれる『セルフビルド賃貸』」