text= 安田洋平(東京R不動産/Antenna.Inc)/photo= 杉浦貴美子

いよいよ「団地オモシロアイデア会議」

そして午後から「団地オモシロアイデア会議」。気持ちが良過ぎて、危うく会議をするという本来の本日の目的を忘れてしまいそうだったがそこは気持ちをしっかり切り替える。団地の集会場内にイーゼル、段ボールボード、ポストイット、サインペン、画板大のホワイトボードなどを運び入れ準備。
今回は「アイデアキャンプ」という手法を用いることにした。
アイデアキャンプとは、道具や方法、場所をちょっと工夫することによってアイデアを出しやすくする発想のスタイル。慶應義塾大学情報学部准教授の中西泰人さんが中心となって提案している。キャンプという言葉には野外のようにインフォーマルな雰囲気のなかでリラックスしながら行うという意味と、「訓練キャンプ」の言葉にあるように合宿してトレーニングするという意味と両方が込められている。(アイデアキャンプについて、詳しくはホームページをご覧ください。こちら

アイデアキャンプ、スタート!

というわけで、中西さんに講師を務めていただき、アイデアキャンプのスタイルを採り入れながら団地のユニークな使い方を考えていくことにした。
(1)まず2人でペアになって「団地のいいところ」をどんどん出し合いそれをポストイットで貼っていく。ただし雑談的に行うのではなく、どちらかが話す側、もう片方は聞く側に徹しなければならない。話す側になった人はどんどん出し続け、聞き役はポストイットにその意見を書き、ボードに貼っていく。10分やったら、役割をチェンジ。

中西さんによればこれはスポーツのウォーミングアップのようなものだという。あまり深く考え過ぎず、ポンポン出すことが大事。 

ちなみにこれで出てきた参加者の意見の一部が以下。環境の良さ・子育て・いろんな世代が住んでいることに関係しているものが目立つ。

「団地のいいと思うところ」参加者意見

・子育てにぴったり
・お年寄りとも仲良く、子どもをみてもらえる
・木登りOK、的な?(したことがないことを子どもにさせてやりたい)
・スーパーとか保育園がある
・学校・商店街が近くにある
・団地の子は仲が良い
・安いのが魅力         
・年配の人と話す機会
・鬼ごっこ、楽しそう!
・日当たりが良い
・(敷地内の)道がまっすぐでないところが良い
・ヤモリとか生き物が多い
・小さい頃団地に住んでる友達の子同士が仲良しで羨ましかった
・建物が熟成している
・敷地内にブランコあるのにビックリ
・団地だと子どもが住みやすそう
・コンクリートより土・緑の感じがあるところ
・子どもにとって遊び場が多そう!
・広くて緑がある
・空地がひろく取れているところ
・木々が多い
・適度な荒れ感がいい
・木の種類も多い
・若い人と高齢者の接点があっていい
・棟番号のサインが愛らしい
・ジブリの映画のような懐かしさ
・愛着が湧くディテール
・団地内のコミュニティーがありそう
・緑と古い建物が気持ちいい
・保育園が同じで子どもたちに仲間意識が生まれる
・草ボーボーで蔦がはっているところ


(2)次に「団地にこんな人が住んでいたら面白いと思う人」を職業など含め具体的に挙げる。たとえば「マグロ漁船の猟師(ただし一年の半分は漁に出ていて団地に居ない)」「銭湯の絵描き」といったように。今度は4人一組のチームになって、順番に挙げていき、またポストイットでボードに貼っていく。

(3)「その人がもし団地に住んでいたとしたら、団地のどんな楽しい使い方が考えられると思いますか?」と中西さん。これまで挙がったいろんな人についてポストイットをランダムにピックアップし(ボードを、目をつむったまま指差し、ポストイットを一枚選び出す)、この人が団地の住人だったら・・ というストーリーを各自即興で創り、それをまたポストイットに書く。「○○な人の住む団地とかけまして・・」。ちょっと大喜利感覚。

(4)最後に、4人一組の各チームで、一番面白いと思った団地の使い方のアイデアをひとつ選び、それを絵に描いて参加者全員に向けて発表。言葉だけでなく絵にすることでより具体的なディテールに気づけたり、お互いのイメージ共有が図れるという。

こうして団地の集会場は、無数のポストイットが貼られたダンボールボードと、「こんな団地があったら・・という」団地のイメージドローイングでいっぱいになった。そしてタイムアップ。今回の「団地オモシロアイデア会議」はいったんここまでとなった。

参加者の感想

最後に、参加者の感想を聞いた。

「普段は、間取りや設備をどうする、こうする、という話からしか発想しないが、今日このイベントに参加して、住み手というのは改めて大事な存在だと思った。いろんな人がいろんな使い方をしていると、人が集まってくるような気がする」

「自分は団地に住んでいるので、団地内の話し合いに普段も参加しているのですが、そこではいつも『何が問題か』『こんなところがダメだ』という話が中心。多少荒唐無稽でも、『こんな団地があったらいい』というポジティブな話ができたのは初めてだったので、今日は楽しかった」

「自分は団地にそれほどこだわりがあるわけではなく、住む場所は楽しい方がいい、くらいにしか考えてない。ただ今日、建て替えで新しく建てられた住棟と、まだかろうじて残っている古い住棟の両方を平等な目で見て、古い方は都会なのにコンクリートと緑がうまく調和していてトカゲやテントウムシをちょこちょこ見かけたり、何十年もかけている良さを感じた。一方、新しい方は、きれいに道と緑が切り分けられて人工でつくられた印象だった。環境というものは、時間もかけないとつくれない。そういうものが簡単に壊されてしまうのはやっぱりもったいない。生かすためのこういうアイデア出しの機会は良かったし、またこういう場があれば参加したい」

「日本では建物は古くなるとすぐ建て替えよう、という話になる。そして建替えの理由は常に『老朽化』。でも古くなったと言っても50年くらいだと欧米では普通に使って暮らしているし、つまり直せば使えるわけです。実は、老朽化しているのは建物の方ではなく、アイデアの方なのではないか? そんなことを、今日のアイデア会議でみなさんのアイデアを聞きながら思いました」

楽しかった一日

「今日は楽しかった」。参加者から口々にその言葉が聞けたのが何よりのこの会議の成果だったかもしれない。シンプルに、いい一日だったし、それはこの場所の気持ち良さに因るところが大きかった。改めてこのリソースを活用しないのはもったいないと感じた次第だ(帰りがけには、団地の敷地内に売りに来ていた移動販売車で路地ものの野菜を買ったりと、最後までここを満喫した)。集まってくださった皆さん、本当にありがとうございました! また団地で、何か一緒に「この続き」をできたらいいですね。

ちなみに、アイデアキャンプ。当日見学に来ていたUR都市機構の社員の方たちがこの日のワークショップの様子を見て気に入って、急遽、今度の業務研修で取り入れることにしたそうですよ。