text: 北澤 潤(現代美術家/北澤潤八雲事務所) photo: 伊藤友二(フォトグラファー/北澤潤八雲事務所)
2013年12月15日(日)、埼玉県北本市の北本団地で「アットホームデパート」という催しが開催されました。団地の子どもたちやお母さんたちが市民オーナーとなってお店を創作し、みんなで商店街の中に「百貨店」を開くというアートイベント。その様子をレポートします。


大きなアーケードが印象的な北本団地商店街に「アットホームデパート」のロゴやフラッグがかかりました。

リビングルーム・プロジェクト

北本団地では2010年から「リビングルーム」というアートプロジェクトが行われています。これは、商店街の空き店舗を舞台に、地域の中に新たな出会いと活動を生み出す場としての「居間」をつくっていく試みです。舞台は団地商店街に佇む空っぽの空き店舗。始めに住民の方々から家具や生活用品を譲り受け、それらを空き店舗に配置していくことで誰もが出入りできる「居間」をつくり上げます。さらに、そこで自由に物々交換をして良いという仕組みを取り入れることで、「居間」の内装は常に変化し続けていきます。現在は、変化する空間にインスピレーションを受けながら、人が集い、住民誰もが自発的にさまざまな地域活動を企画できる拠点として活用されています。「アットホームデパート」も、この「リビングルーム」という場から、そこに集まる子どもたちやお母さんたちが中心となって立ち上げたイベントです。


アットホームデパートの様子より。宣伝に勤しむ子ども店長たち。

商店街の空き店舗を開放して市民がつくる「百貨店」

「アットホームデパート」の特徴は3つ。1つ目は、市民オーナーとしてだれでもお店をつくって店主になれること。2つ目は、商店街にある空き店舗を使って、その中にお店が並ぶこと。3つ目は「リビングルーム」に集まった家具やお家にあるものを工夫して手づくりのお店をつくること。団地商店街を百貨店に見立てることで、いわゆる高層で敷居の高いイメージではなく、むしろ庶民的で街に溶け込んだ「みんなの百貨店」ができあがっていきます。

ただし「アットホームデパート」は、不定期出現、一日限定開催としているので、この一日が終わるとまた元の空き店舗へ戻っていきます。記念すべき第一回となる今回、空き店舗が区画毎に7つの「フロア」に分けられ、その中に13のお店が出店しました。

午前11時、「アットホームデパート、スタート!」のアナウンスですべてのお店が開店。団地自治会の餅つき大会や、商店会の大売り出しと時期を重ねて行われたこともあり、開始早々から大いに賑わいました。

個性豊かなフロア、等身大のお店

手づくり雑貨を売る「雑貨フロア」と、ものづくり体験ができる「ワークショップフロア」は、地域のお母さんたちが中心となってお店を出店。親子連れのお客さんが午前中からたくさん出入りしていました。もともと子育て世代が多く住むこの団地。普段の商店街には買いたいモノがないけど、同世代の人たちがお店をしているから何だか買いたくなる。普段商店街で見ない若い層が、一日だけのお店に足を踏み入れて目を輝かせていました。


団地に住む若いお母さんたちが次々に。ゆっくりしてもらおうとコタツが置かれていたり、店長の工夫が散りばめられています。

予約制のワークショップフロア。お客さんもものづくりに没頭していました。

小さな店長が切り盛りするお店たち

「衣料品フロア/生活用品フロア」には、「リビングルーム」に集まったモノを加工して創作した商品を売るお店が出店。「レストランフロア」では、卵料理専門店やオリジナルメニュー満載のカフェが営業中。団地商店街メインストリートの真ん中で盛り上がりを見せるのは段ボールでできた手づくりゲームを楽しめる「ゲームセンター」。
これらのお店はすべて、団地の子どもたちが一から企画した意欲作です。大人と子どもが一緒になってお店を切り盛りする風景は何ともアットホーム。同じ商店街の店主さんも「今日はホント賑やかね!」と、お仕事の合間を見つけてはお客さんになってフロア巡りを楽しんでいました。


卵料理専門店「はらたま」。お客さんが絶えることなく、人気店となりました。

アイデア満載の「ゲームセンター」。

「アットホームデパート」のフィナーレには、百貨店らしい催事が行われました。その名も「団地レース」。団地内の各所に隠されたスタンプを探し集めてタイムを競うこの企画、スタートの合図とともに子どもたちが団地を駆け出していきました。


「団地レース」を楽しむ子どもたち。

アットホームデパートは続く

「団地レース」の優勝者に景品が贈呈されたころにはもう日が傾き、「アットホームデパート」終了のアナウンスが流れました。「もっと続けたいー!」と叫ぶ子どもたち。その後、その場にいたみんなで協力して片付け、1時間ほどでいつもの北本団地商店街へと戻っていきました。
たくさんの人が関わって実現した「アットホームデパート」の1日は、「お店をやってみたい」という子どもたちの小さな夢を現実のカタチにし、お母さん世代にそれまで考えてもみなかった新しい団地の楽しみ方・交流の仕方を提供して、普段商店街を切り盛りする商店主の方々には、賑やかだった頃の団地商店街のさまを思い出させてくれたことでしょう。もしかしたら、こうしたイベントの売り上げが団地の活動を支える財源になるかもしれない。もしかしたら市民オーナーがホントに商店街で商売を始める、そのためのきっかけとなれるかもしれない。もしかしてもしかしたら、全国の商店街に「アットホームデパート」が広がっていくかもしれない。そんな想像をかきたててくれる素敵な時間になりました。

達成感溢れる顔で片付けをし終わった子どもたちは、早速次の「アットホームデパート」でやりたいお店のアイデアを考えたようで、大声で私たち大人に向かって発表してくれました。第2回開催に乞うご期待です!


訪れた誰もが微笑ましい気持ちになるアットホームな百貨店「アットホームデパート」。

アットホームデパートのホームページ

“アットホームデパートの生みの親”、リビングルーム・プロジェクトのホームページ