text=千葉敬介(東京R不動産)
これまでの内装リノベーションに加えて、外観までもが新たな色彩へと生まれ変わった館ヶ丘団地。
爽やかで、小気味良くリズミカルなその姿は、ここでの楽しい暮らしを予感させます。
でも、なぜこの団地ではこんなに気になる出来事が次々と……? いよいよ今回は、その秘密をお伝えします。
そして、生まれ変わった姿をお披露目する、ちょっとしたイベントも計画中……。


棟ごとに配色を変えたデザインで、爽やかに、リズミカルに。新しい姿でお目見えしました。
「ちょうど」タイミング良く

やっと足場が外れたらしい。
そう聞いてやってきたのは、このサイトではすっかりお馴染みになった、館ヶ丘団地。
高尾の山裾の森に包まれるように建つ、「超」が付くほど広大な団地です。

1975年に造られたこの団地は、来年40年目を迎えます。
それを目前にした去年の冬から、実はある計画が進行していたのです。
「Life Scape Design Project」と名付けられた計画。その核となるのが、外壁の色彩計画でした。
それは団地の北西に位置する一画を、新たな色彩とサイン計画によってデザインし、生まれ変わらせるというもの。

ただ、ここだけの話。高尾を目指す中央特快の車中は、不安と期待が半々でした。
それは、古い団地が好きな人間にとって、白くてちょっとすすけた今までの姿も、たまらなく魅力的だったから。
そして、センスのない色彩計画によって悲しい姿になった団地を、これまで何度か目にしてきたから。

でも、建物が視界に入ってきた瞬間、そんな気持ちは吹き飛びました。

まるでヨーロッパの集合住宅、というとちょっと言いすぎかもしれませんが……
新たな姿に生まれ変わった団地は、ご覧の通り実に爽やか。シンプルなサインもデザインを引き締めています。

「建物は20年ぐらいで塗り直す必要がある。でも真っ白にしても、塗り分けても、コストは大して変わらないんです。」
そんな説明を聞きながら、団地をグルっとひと回り。

40年で2度目の塗り替え。
そんな機会が、まさに「ちょうど」なこのタイミングでやってくるとは……。

何がそんなに「ちょうど」なのか? そして、なぜこの団地では次々と気になる出来事が起こるのか?
今回は、その秘密をお伝えします。そして、最後にお知らせも。


どこか日本ではないような雰囲気さえ漂う配色とデザイン。きっかけは住人の方々への心遣いからだったとか。
疾走の原動力

「自分の仕事は、オーケストラの指揮者のようなもの」
そう語るのは、この館ヶ丘の「団地マネージャー」である、浅野修一氏。
まるで巨大なダンプカーのようなこの団地を巧み操縦し、快進撃へと導いてきた立役者です。

2013年春に紹介した、若者向けに改装された住戸「New Basic」と、デザイナーがリノベーションした「Premium」。
そして、足元がピカピカに磨かれた商店街に、コミュニティスペース「団地の縁側」が出現。
自分で改装できる「DIY HOUSE」が登場したかと思えば、団地の入り口には防災機能を持つ待合所「ソーラーバスシェルター」が。さらに今回、建物の外観までもが一新され、「New Basic」と「Premium」には続編も。

1つの団地で、たった3年の間にこれだけ劇的な変化が起こった例を、他に知りません。
その全てを自ら考案し、陣頭指揮を執ってきたのが団地マネージャーである浅野さんです。
そして、一番驚くのはそれが着実に、目に見える効果を上げていること。

住人の高齢化率ひとつ取っても、浅野さんが着任した2012年から比べて数ポイントも改善していると言います。
実は、人は毎年確実に年をとるので、何もしなくても高齢化率は勝手に上がります。
それが下がるということだけでも、驚くべき事実。
実際に、団地内では若い人の姿が目に見えて増えているのに気付きます。


工事中ですがサイン計画も着々と。よく見ると部屋番号にはフックが。ネームプレートやクリスマス飾りなどをここに。
未来の足音

団地マネージャーの采配が功を奏し、活気を取り戻してきた館ヶ丘団地。
でも、URの団地ならどこにでも団地マネージャーがいるかというと、むしろその逆。
そして、そんな少数の中でもさらに、浅野さんはちょっと特殊な存在なのです。

実は、浅野さんは新築マンションの分譲会社から、出向でURに来ました。
新築の販売では、古い賃貸団地の住民が顧客になることも多かったとか。
それが一転、逆の立場で仕事をすることになったのです。

そこで考えたこと。それは新築にはない、古い団地ならではの魅力は何か、ということ。
50~80戸の規模が標準的だという新築マンションでは、こんなに広くて緑豊かな敷地は到底手に入らない。
そしてその広い敷地を含め、共用部はいつも管理や清掃がされ、管理費は一般の分譲マンションと比べて低水準。
さらに、しっかりとしたコミュニティが醸成されているのも、新築では考えられないことの1つ。
しかも、そこには保育園や幼稚園、小・中・高校に、病院や商店街までが揃い、さながら1つの街のようです。

そんな強みを、「生活シーン」の視点から見直し、再編集することでその魅力を引き出してきた、と言う浅野さん。
さらに、それを伝えるプロモーションには、新築分譲で鍛えられた手腕が活かされます。

でも、一方で既に住んでいる人たちの安心と快適さへの配慮も手を抜かない。それが浅野さんの考え方。
以前紹介した、お年寄り向け自転車タクシー実現のサポートや、商店街のコミュニティスペースもその一端。
さらに今年は、団地内に介護の拠点を設けるべく、役所との調整に奮闘してきたと言います。

実は、デザイン先行で考えられたかのような今回の色彩計画も、発端は既に住んでいる人たちへの配慮から。
広さ29ヘクタールもある団地では、長年住んでいるお年寄りにも、たまに住棟を間違える人がいるのだとか。
ならば棟ごとに色を変え、識別しやすくしたらどうか?

そんな思いでスタートしたプロジェクトは、色彩計画のプロを招き、こんなにも素敵な結果をもたらしました。
そして、敷地内外の豊かな自然を引き立てる色やデザインにすることもポイントだったと語る浅野さん。
古くて大きな団地ならではの、住む楽しみを見つけ、それを増幅してやることこそ、重要なテーマなのだと。

そんな浅野さんですが、着任当初は住人からの反発に戸惑いを感じたと言います。
でも、目に見えて変わっていく団地に、今ではすっかり信頼を寄せられる存在に。
きっと、住人の方々もその変化に、明るい未来を予感したのでしょう。

そして、若い人たちも。
住み心地の良い場所になりそうだという予感が、この団地に再び人を集め始めているのです。


写真は11月後半に募集されるリノベーション住戸「premium 2」。2014年1月から始まった「new basic 02」も募集中です。

さて、そんな新しい姿になった団地のお披露目を兼ねて、11月23日(日)にちょっとした催しを考えています。
住人の方々とも触れ合える機会になる予定なので、お時間があれば是非ご参加を。

そしてこの日は、「premium 2」の抽選募集も行う予定。
詳しい情報はこちら。