text=大我さやか(Open A)
昭和30年、高度経済成長による住宅不足を解消するために誕生した、日本住宅公団。
その発足当時に供給された住宅が、50年以上経った今、大阪府堺市の「白鷺団地」で復活。
当時の内装を丁寧に復元したモデルルームと、現代版にアレンジした住戸が登場。
なんと限定3戸ですが、この住戸は実際に住めるんです。団地好きにはたまらないレトロ住宅の登場です!


昭和30年代の住宅が復活。キッチンや板の間は当時の建材がリユースされています。
昭和30年代にタイムスリップ

白鷺団地は、このサイトでも既にご紹介していますが、大阪府堺市にある全1,421戸の大規模団地です。
南海本線「白鷺」駅より、徒歩5分。線路沿いに広がるこの団地は「階段室型住棟」で構成されています。
かつてこの地域には農業用のため池がたくさん点在していて、そこに白鷺が舞い降りることから名付けられた地名。
団地の外壁には、白鷺が飛び立つ様子がシルエットで描かれています。

昭和38年に入居開始した、公団住宅の中でも古い方の白鷺団地。
4年前に団地の規模をコンパクトにする事業に着手し、半分くらいの住棟を取り壊す工事が始まっています。
残す住棟は、外壁の塗り替えや、住戸のリノベーションなど、これからも長く使えるよう大幅にリニューアルを行っています。


竣工当時の白鷺団地。白鷺公園の池をバックに、線路を挟んで団地が広がっていた。(提供:独立行政法人都市再生機構)

今回解体される住棟の中には、竣工当時の内装や間取りがそのまま残る住宅がありました。
公団発足当時につくられ、今でもその原形を残す住宅は、75万戸を抱えるURでもかなり希少なもの。
その記憶がなくなってしまうのはもったいない。
解体される部屋から、床材や建具をかき集めて、当時の住宅を再現しよう。
そうして始まったのが、この復刻版住宅プロジェクトです。

今回は、その復刻版住宅を見ながら公団住宅の原点を探ってみたいと思います。

住宅設備にみる住まいの変遷

玄関の明かり取りや浴室の扉、サービスバルコニーへの扉が、全て木製のガラス戸という開放的な浴室。

昭和30年代といえば、劇的に生活環境が変化した時代。テレビ、洗濯機、冷蔵庫が家庭に普及し始めたのがこの時期です。
白鷺団地が入居開始を迎えた昭和38年、白黒テレビはほぼ100%に近い普及率でしたが、洗濯機は70%、冷蔵庫はまだ40%程でした。つまり、それらが当たり前ではなかった時代に、この復刻版住宅はつくられたのです。

丸いドアノブがついた玄関扉を開けると、昭和30年代の生活にタイムスリップ。
まず目に飛び込んでくるのは大きな窓。ウロコのような凹凸が特徴的なガラスが入っています。
これは玄関を明るくするためのもの。浴室を通して外の光が入るよう、大きな窓が浴室に設けられていました。


ヒノキの桶と銅の留め金物が磨かれ、竣工当時の美しさを取り戻しました。奥にあるレバーは風呂釜のもの。

その浴室をのぞいてみると、なんと、正方形のコンパクトなヒノキ風呂が!
これは解体される住戸から偶然発見されたもの。
たいていは樹脂製の浴槽に取り替えられているため、ヒノキ風呂が残っていることはほとんどないそうです。
ヒノキを銅の金物と釘で留めたシンプルな構造。


浴槽の中には鉄製の風呂釜。公団初期の団地には右写真のようなヒノキ風呂がありました。(右写真提供:独立行政法人都市再生機構)

足を折りたたんでやっと入れる大きさの浴槽ですが、浴室内にはヒノキの香りが満ちています。
中を見てみると、腰掛け用でしょうか? 中に段が設けられたその下に、怪しげな穴の空いた装置が。

実はこれ、給湯器がなかった時代の「風呂釜」。
壁の着火レバーを回すとガスに火がついて、湯桶に溜まった水を温めるという仕組み。
「直熱式ガス木風呂釜」と呼ばれ、バランス釜が登場する昭和40年より前に使われていたものです。
「お風呂は銭湯」が当たり前だった昭和30年に、公団住宅では風呂付き。その影響もあって広まった内風呂文化は、白鷺団地が建設された昭和38年には、普及率6割にまで達していたそうです。

今では当たり前となった水洗トイレも当時は最新設備。
洗面器、小棚や鏡が備え付けられた洗面設備も、ファッショナブルだったことでしょう。
木製の化粧壁が印象的な洗面室は、大工さんが合板を加工して現場でつくったもの。
今は様々なデザインの化粧壁が売られていますが、当時はこうして壁をひとつずつ大工さんがつくっていました。

団地の歴史は、キッチンと共にあり。

キッチンのディテールは見所がいっぱい。木製の吊り戸棚やキャビネットのデザインは今のものと比べても見劣りしません。

団地の進化を語る上で、外せないのはキッチンの存在です。
当時、標準的な間取りであった「2DK55型」というプランでは、DK=ダイニングキッチンという考え方が採用されました。
それまで、家の端っこで料理をつくるためだけの場所だった台所が、このプランでは家の中心に据えられます。
実は、初期の公団住宅には当時はまだほとんど流通していないダイニングテーブルが備え付けられていました。

キッチンに目をやると、真ん中にシンクを備えたシステムキッチンが。
木製の吊戸棚、ステンレスの水切り棚、シンク下が大きく開いた収納付きキッチン。
日本の台所文化が、海外から来たキッチンというスタイルに変わる、ちょうど転換期。
当時の主婦たちはこのキッチンに立つことにきっと憧れたことでしょう。
「日本住宅公団指定Takashimaya特製」のプレートは、高島屋百貨店のロゴにも似ていますが、これは当時のキッチンメーカーです。

そして何といっても、この部屋で引き立つのは、やはり板の間でしょう。
解体される住戸から丁寧に剥がし、表面の汚れを削って落とした床板材は、無垢材だからこそ再利用が可能だということを教えてくれます。汚れても数ミリ削れば元の美しい木肌がよみがえるのです。


窓もきちんと木製。真鍮製のねじ鍵やハンドルがたまりません!

そして、二間の和室には、木製窓がしっかりはまっています。
クレセントの代わりに、ネジを回して開け閉めする真鍮製のネジ締がついています。
木製窓から見る景色は、アルミサッシで切り取られるそれよりも、なぜか柔らかく懐かしく感じられます。


緩やかに室内を仕切る襖を開ければ部屋全体がつながる、昔ながらの団地の間取り。
限定3戸募集! なんと、昔の内装に住めちゃいます!

昭和30年代の間取りとディテールを踏襲し、現代版にアレンジされた住戸。こちらは住むことができます!

さてさて、今まで紹介してきたのは昭和30年代当時の住宅をそのまま再現したモデルルーム。
「こんな家に住んでみたい!」って思う方もきっといらっしゃると思います。
しかし、冒頭でも紹介したように、当時は洗濯機も冷蔵庫もスタンダードではなかった時代。
そこで現代の生活に不便なところを改良し、古い味わいはそのまま残した賃貸物件が「AOH(Again Old Home)住宅」です。


台所と南和室を一体化。洗濯機や冷蔵庫、レンジ置き場を備え、現代の暮らしにフィットする形に改良したAOH住宅。

AOH住宅の募集は、限定3戸。
台所と一体化した居間のフローリングも、全て解体住戸から丁寧に剥がし、磨いて、色をつけ仕上げたもの。
はっきり言って、めちゃめちゃ手間がかかっています。
壁も塗装かと思いきや、プラスターと呼ばれる塗り壁。平滑になるよう左官職人が丁寧に仕上げた壁です。
塗装とも壁紙とも違う、プラスターの質感が魅力的。
洗濯機や冷蔵庫、電子レンジなど、今の生活になくてはならないアイテムがちゃんと置けるバランスの良さもいい感じです。


板張りの洗面所やヒノキ風呂が復活。手を入れるところ、残すところのバランス感がちょうどいいです。

昔の住宅に住んでみたい方も、レトロ好きも、団地マニアも、興味本位で見てみたい方も。
ぜひ白鷺団地に昭和の雰囲気を感じに行ってみてください。

AOH住宅募集概要
募集住宅:402号室(4階)、501号室(5階)、502号室(5階)
面積:41.85㎡
所在地:大阪府堺市東区白鷺町一丁目24番B11号棟
家賃:402号室53,100円、501号室・502号室51,700円
共益費:1,750円
募集方法:抽選
公開期間:平成28年2月13日(土)~2月20日(土)(期間中、毎日公開)
申込受付・抽選:平成28年2月21日(日) 10:00
申込場所:白鷺団地集会所
※見学の受け付けは現地案内所(A16号棟205号室)で行っています。
募集に関する詳細はこちら
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問い合わせ先
UR泉北営業センター
電話:072-290-6900
営業時間9:30~18:00(水曜日定休)

関連リンク:
白鷺団地の紹介ページ(団地R不動産)
白鷺団地の物件情報(UR)