text= 千葉敬介(東京R不動産)
このサイトでも、そして書籍『団地に住もう! 東京R不動産』でも紹介している館ヶ丘団地。
高尾山の山裾にめり込むように、森に囲まれて建つこの団地は今、新しく生まれ変わるための準備を進めています。住戸のリニューアルや、共用部での新しい取り組み、そして団地ならではの新しいサービスも。
これから団地を楽しみ、住みこなすための手掛かりにもなってくれそうなその取り組みを、今回から3回にわたってレポートしたいと思います。


館ヶ丘団地はまさに森の中。すごい環境にある団地です。
写真:書籍『団地に住もう! 東京R不動産』(日経BP・刊)より 撮影=ゆかい

38年目の春に

2013年は、館ヶ丘団地にとって転機と言える年になりそうです。
そのスタートは2月。新しい内装に生まれ変わる高層棟の入居者募集から。
そしてそれを皮切りに、団地内では新しい取り組みが、次々と始まっていく予定なのです。

例えば、春には団地の自治会が運営するベロタクシーがスタート予定。
団地中を走り回ってお年寄りの送迎をするようになります。
そして5月には、日本初と言われるソーラー・バス・シェルターなるものが登場?

それ以外にも、様々な取り組みの準備が着々と進められている館ヶ丘団地。
たった1年足らずの間に、こんなにも沢山の劇的な変化が1つの団地で起こるとは・・・
にわかには信じられないような気持ちでいっぱいです。

その取り組みがいったいどんなものになるのか?
それによって、団地にどんな変化が起こっていくのか?
まさにリアルタイムで進行していくプロジェクトを、この目で確かめ、検証する絶好のチャンス。

築40年を間近に控えた、古くて巨大なこの団地は、都心からも遠く、駅からもバスという、郊外型団地の典型的な弱点を抱えています。

でもその一方で、こんな団地があったのか?と、きっと誰もが驚くような、大自然の中にあるこの団地は、他では得がたい魅力に溢れていて、僕らが大好きな団地でもあるのです。

そんな団地での試みが、どんな結果をもたらすのか。
そこには、団地のこれからを考えるヒントがザクザク見つかりそうな予感がして、いやがうえにも期待が高まります。


高層棟では、室内のリニューアル工事と耐震補強工事が、どちらも急ピッチで進行中。

高層棟がリニューアルされて復活

URの館ヶ丘団地で、面白い取り組みが始まるらしい。
そんな話を聞きつけて、急遽団地へと駆けつけたのは、年末もかなり押し迫った頃のこと。
高尾山の麓にある、この広大な団地の敷地は、およそ29ヘクタール。と言われてもピンと来ないと思いますが、とにかく歩いても歩いても、どこまでも続く団地の敷地。

そんな広大な団地の一番北側、他よりも一段高い位置に、11階建の高層棟が7本、団地全体を見下ろすように建っています。

ここからの眺めはさぞや壮観だろうと、実は以前から想像を膨らませていました。
と言うのも、この高層棟が耐震補強の準備のために、長らく募集をストップしていて、その内部に入ることが許されていなかったからなのです。

念願の初潜入。でも期待が裏切られることはありませんでした。
特に上層階ともなれば、その眺めは圧巻の一言。窓から見えるのは、右を向いても左を向いても森ばかり。
その手前に連なる団地の住棟を見下ろす風景は、自然を愛する人にも、そして団地好きな人にもお薦めの特等席です。


高層棟の上層階からは、こんな眺めが毎日楽しめます。(これは夏の頃、最上階からの写真)

特等席の中の特等席も

今回、生まれ変わって新しく入居者を募集するこの高層棟。
実は、ここにも普通のリニューアルではない、新しい試みが用意されています。
それは、最上階の一部だけに作られる特等席。
他とは仕様が完全に分けられている、特別な住戸です。

まずは通常のタイプ。「new basic」と名付けられた住戸から見てみます。
かつて和室を中心に構成されていた部屋は、1室を除いて洋室に生まれ変わり、色合いも白を中心に明るいトーンで統一。とは言え、基本的には昔ながらの団地テイストを残しつつ、現代の暮らしに馴染むようにリニューアルをしているので、レトロなすりガラスもあったりして、団地のほのぼのした感じも楽しめます。

細切れだった間取りが解消されて、LDKが広く取られたタイプもあって、これは特にお薦め。
大自然を眺めながらゆったり暮らす生活がイメージできました。

そして、最上階の一部に作られるのが「premium」と名付けられた特等席です。
その名の通り特別仕様のこのタイプは、デザイナー監修の下、ワンランク上の高級仕様で作られる予定。
しかも100戸以上ある中で、たった3戸のみ提供され、モデルルームを見て気に入った人のために、契約完了後に注文生産で作るという、URの常識を覆すスタイルで提供されることになっているのです。

こちらは、現在モデルルームの工事が急ピッチで進められているところなので、まだ写真はありませんが、完成後の様子は次回のレポートでお見せしたいと思います。

高層棟では、それ以外にもエントランスを中心にした共用部のリニューアル工事が行なわれていて、生まれ変わった姿でお目見えする予定です。

本当の目的は

2013年のスタートとともに、団地のあちこちで次々と立ち上がる新しい試み。

その準備段階として、2012年秋には館ヶ丘団地の特設サイトがオープン。さらに年末には団地名の表示が「館ヶ丘」から「Tategaoka」とアルファベットに変えられるなど、計画は着々と進められてきました。

そして始まるリニューアルされた住戸の入居者募集。
そこには、ある特別な思いが込められていると言います。
それは、若い世代の人々にこの団地の魅力を知ってもらい、ここでの暮らしを楽しんでもらうこと。
そのために、若い世代の人たちのライフスタイルに合った住環境を提供すること。

実は、他の郊外型団地の例に漏れず、この館ヶ丘団地でも高齢化の問題はその影を落としています。
もちろん、URは公的な住環境の提供者としての役割も担っていて、高齢者の人たちが安心して暮らせる環境を提供するというのも、そのひとつ。実際にどの団地でも高齢者向けの住戸の提供は積極的に行っています。

ただし、行き過ぎた高齢化や人口の偏りが進むと、コミュニティーが壊れてしまい、ひとつの小さな町としての団地が機能不全に陥ってしまうことにもつながりかねない。

そうならないために、若い人たちにこの団地の存在に気づいてもらうこと。そして、この特別な環境を楽しみながら暮らしてもらうこと。それが今回のプロジェクトの目標です。そのために高層棟という、眺望にも恵まれ、バス停や団地の商店街にも近い特等席を、若い人たちに提供してしまおう、というのが今回のリニューアルなのです。

それに合わせて、商店街も明るい雰囲気に生まれ変わらせるなど、様々な取り組みが進んでいます。さらに、ベロタクシーなど高齢者の人たちが暮らしやすくなる取り組みもスタート。それらが合わさることで、高齢者を含めた年配の世代と、若い世代とが、一緒にこの団地での暮らしを楽しむことができるようになったら素敵です。

次回以降では、ベロタクシーなど新しい取り組みについてもレポートしたいと思います。

館ヶ丘団地の紹介ページ(団地R不動産)
http://www.realdanchiestate.jp/?p=879

「Tategaoka」館ヶ丘団地 特設サイト(UR)
http://www.ur-net.go.jp/akiya/tokyo/tate/

館ヶ丘団地の物件情報(UR)
http://www.ur-net.go.jp/akiya/tokyo/20_2600.html

【連載】生まれ変わる館ヶ丘団地
第1回 38年目の転機
第2回 近居してみる?
第3回 そして走り出した