text= 星田逸郎(星田逸郎空間都市研究所)
今回は、観月橋団地プロジェクトをともに手がける、Bエリアを担当する建築家・星田逸郎さんのリノベーションプランをご紹介。星田さんが担当するのは旧1DK・3Kの間取り。
Open Aモデルとはまた違ったコンセプトと工夫があり、エリアごとに個性のあるプランが展開されています。


観月橋団地の顔でもあるケヤキ並木と並行して建つ2、3号棟。1DKをワンルームにリノベーション。

■ケヤキ並木と並行した1DKの住棟

Bエリアには、2種類の住棟がある。
2、3号棟は、エレベーターのない片廊下型で、10戸の1DKタイプが横一列に並んだ、
やや珍しい構成である。
団地玄関の勇壮なケヤキ並木に沿って2棟が一直線に並び、北側の現1、4号棟が対になってストリートを形成している。

約26平米の1DK(6帖和室+台所)というコンパクトな住戸であるが、
2、3号棟の間に今回エレベーターが1基設置されるため、一度に100戸ものバリアフリーアクセスの住宅ができあがる。
団地内でお年寄りに移って来て頂くこともでき、若者のアクティブな住宅としても開放できる。

今回はその内13戸について改修を行った。
高齢に偏っている年齢構成を老若のバランスあるコミュニティへと変化させていくためにも、今回の改修住戸については若者に積極的に来てもらうことを目標とした。
よって、若者のライフスタイルにもマッチし、かつプランのバリエーションを増やしていくためにも、従来の和室主体をフローリングの一体空間へと改修した。


コンパクトだが、洗面台と一体型のキッチンや壁一面の収納など、若者からお年寄りまで使いやすいプラン。

■高台に建つ、見晴らしの良い3K


12、13号棟の南側に広がるのは、緑の海原。宇治川沿いの高台に建つため、上層階の住戸は緑と陽の光が溢れる。

12~14号棟は従来の2戸1階段型で、高台にある団地の南側を占めているため、
12、13号棟は特に眺望や日当たりがとても良い。
約42平米の3K(3つの和室と台所)で構成されており、
間口は7.2m、奥行き6.3mで南北とも開放され、
間取りはやや狭々しいが襖や間仕切を取り払えば気持ちのよい空間を持っている。

Bエリアは諸室の構成の大胆な変革は行わず、
南側の居間や食堂・和室を一体化し、眺望や屋外の樹木の気持ち良さを部屋内にいっぱいに取り入れ、内装はそのキャンバスであると考え、シンプルなものにした。


南側の居室を一体化し、広くのびやかとなった旧3Kのプラン。キッチンを中心とした2つの空間は、どちらをリビングorダイニングにするか、住み手の自由な判断に委ねられる。

■設備のプレートリングと、畳のリノベーション

設計上は大きく2つの提案を行った。

一つは新たに追加される配線や配管や設備盤類を収める帯状のプレートを、
内部空間にリング状に巻くように挿入したことである。
新しいデザインの要素をこれのみに絞り、後は現況の痕跡をなるだけ残しながら素朴な表現に留めることで、空間全体を新鮮な感覚へと転換させる効果を狙った。


照明、電気配線、キッチン、洗面台などの新しく挿入される設備が、ライン状にシンプルにまとまった“プレートリング”。

もう一つは畳の部屋も残したことである。

団地特有の畳部屋の密集構成のプランは、面積の狭い中で空間の用途を勉強→食事→就寝など多様に転換し続けることが可能な、優れモノである。
また畳は、遮音性能が高い、あるいは狭い階段でも搬入がしやすいなど、高性能である。

それらの利点を生かしながらも、畳=和室という固定観念をなくすため、
インテリアは居間と同じくシンプルにし、畳が新鮮なマテリアルに映るようにした。
畳表は樹脂井草としてソファやベッドの使用も想定した。
わざわざフローリングにすると下地のやり直し工事や遮音対策などコストがかかるので、畳を現代的なマテリアルとして見直すデザインは団地では大いに選択肢の一つとなりうる。


1LDK-4(左上)、2LDK(左下)では、団地における畳の価値を再考。樹脂井草の居室は、ソファやベッドを置いても合う新しい畳の使い方を提案。

半世紀前の社会的背景に対峙しながら努力と創意工夫を凝らしたに違いない、この30年代団地。
その住棟の持つ建築としての“厚み”のようなものに敬意を表しながら、
なるだけまずはその良き潜在力を再発見していくことに力を注いだ。
その上で必要最小限の改新を入れ込むことで、その潜在力が新しい魅力ある空間へと開花するような作業に専心した。

観月橋団地リノベーションのプロジェクトサイトはこちら。
http://www.ur-net.go.jp/kangetsukyo/

観月橋団地の詳しい物件情報、問い合わせはこちら。
http://www.ur-net.go.jp/kansai-akiya/kyoto/0800.html

【連載】観月橋団地再生ストーリー
第1回 昭和の団地にタイムスリップ
第2回 カマボコと51C型のすばらしさ
第3回 反転するキッチンの効果。
第4回 土間のある暮らし。
第5回 “挿入”と“継承”のリノベーション
第6回(最終回)新旧住民の交流会