text= 馬場正尊(東京R不動産/Open A ltd.)・大我さやか(Open A ltd.)
前回コラムでは、団地のつくりの元々の良さ、そして時代に合わせてカスタマイズが必要な部分について書きました。では、団地をどのように再構築していったのか。ここでは、その試行錯誤を紹介していきます。

■風の抜ける部屋


南北に開口部があり、明るい空間と風が抜ける。この気持ちよさを新しいプランにも生かした。写真は、実験でつくったプロトタイプモデルなので、実際借りられる部屋の仕上げとはちょっと異なるが、プランはほぼ同じ。

南北に空間が抜けるのが、この時代の団地の最大の利点。

エアコンもなく機械での空調に頼ることができないとき、いかに自然の風を部屋に取り込むかは重要な課題だった。
今では北側に廊下を持って来て通風性が制限されるマンションがほとんど。
階段をつくる費用やレンタブル比(※)など経済性が重視されるので、向かい合う2住戸にひとつの階段という団地のプランは贅沢なつくりと言えるだろう。
観月橋団地は、室内を思いっきり風が通り抜けるし、部屋の隅々まで明るい。
(※)延べ床面積に対して、賃貸部分として運用することができる面積の割合

その団地の空間ポテンシャルを最大限活かすために、南側のキッチンとリビング、北側に寝室、その2つの空間を大きな2枚の引戸で区切った。

引戸は収納側に引き込めるようになっていて、戸をしまえばひとつの大きな空間として、閉じればそれぞれの部屋として、生活のシーンにあわせて空間をスイッチできる。


ひとつながりの空間だが、引戸の開け閉めで空間は大きく変わる。

この引戸も、これまで団地のスタンダードとして代名詞的に使われてきた「フスマ」を再解釈したもの。
壁とドアによって空間を分節化するより、団地は可変的な建具で、空間をスイッチしながら使いこなす方が合っているのだ。

■コミュニケーションの中心としてのキッチン


向きを反転させるだけで、キッチンは空間の脇役から主役に転換した。

特に大きな変更を加えたのがキッチンの位置。
それによって生活の風景はずいぶん変わった。

振り返ってみると戦後の住空間で、そのポジションがもっとも動いたのが台所/キッチンだった。
戦前までは台所は家の端っこ、土間にあった。
団地ができた頃にダイニングという概念が輸入される。
実は、日本で初めてダイニングという空間を取り入れたのが、団地なのだ。

テレビでアメリカのホームドラマが放映され、そこにちゃぶ台ではなくダイニングテーブルが現れ、それがあこがれになってゆく。
それとともに、キッチンの存在が家族のコミュニケーションの中心に移行してゆく。

今や当たり前となったシステムキッチンを開発したもの、団地。
団地は昔から、日本の住空間でのキッチンの位置づけを重要視してきたのだ。

ただし、この35平米という広さは、現代では核家族というよりも、一人もしくは二人暮らしに相当する。この場合、キッチンは生活の中心という位置づけになる。

このプロジェクトでもアイランドキッチンをプランの真ん中に置いてみた。


左が既存の2Kのプラン。右が今回のアイランドキッチンプラン(1LDK-1)。最小限の操作で空間は劇的に変化した。

なにより、キッチンの位置を変更するのに困難だったのは、その納まりとコストだ。
キッチンの位置を変更させる大きな弊害は、排水口の位置だ。
大きな変更は、配管工事が余計にかかりコストアップになる。また、その排水勾配が長くなる分、床の高さが上がってしまい、元々天井の低い団地ではむしろマイナスだ。

なにより、賃料が安いということも、団地のもうひとつの魅力なのだから。
コストを抑えて、でも最低限の空間操作で、団地を住みやすく変えるにはどうしたらいいか?
その試行錯誤の繰り返しだった。

その結果、キッチンの向きを反転させるだけで、空間はかなり現代の生活に近づいたと思う。実際、数十センチしか配管は伸びていないので、コストもほぼ変わらない。

■コンパクトな家事空間

キッチンを反転させたことで生まれた空間がもうひとつ。
今の生活との決定的なギャップ、洗濯機置き場と冷蔵庫の置き場だ。
それまでキッチンがあった場所に、見事に冷蔵庫と洗濯機が収まった。
それぞれの置き場ができただけでなく、キッチンに立ちながら洗濯でき、家事空間がコックピットのようにまとまった。
1LDK-1タイプは、キッチンのまわりをぐるぐる回遊できるので、行き来が多い家事にはなにかと使いやすいし、開放的だ。


こちらはもうひとつのアイランドキッチンタイプ(1LDK-2)。洗濯機置場がキッチンの横にある。

こちらのタイプは、同じくアイランドキッチンのタイプだが、洗濯機収納がキッチンの横にあることで、背面の壁に食器棚や収納が置ける。
こちらのタイプの方が使いやすいという人もいるだろう。

なにより、リビングと家事空間が結ばれることで、家族のコミュニケーションの核となるのが、このキッチンだ。
奥さんがなにか作業をしていても、リビングでテレビを見ている旦那さんと話ができるし、一緒にテレビを見ながら作業できる。
「一緒に食べる」、という行為が家族にとってもっとも日常的な共同作業なのかもしれない。

■モデルルームがオープンします!

この観月橋団地、1/21(土)からモデルルームがオープンします。

公開するのは、実際の賃貸用につくられたモデルルーム。
OpenAで担当した4タイプ(アイランドキッチンタイプ2、土間タイプ2)、
このプロジェクトの違うエリアを担当している建築家の星田逸郎さん設計の3タイプの、合計7タイプ。
それぞれ違ったコンセプトの部屋で、大きさもプランもバラバラ。
(OpenAの土間タイプと、星田さん設計のタイプの紹介は次回以降をお楽しみに!)

2月中旬からURで募集受付を開始する予定なので、そのプレオープンです。
事前予約は不要なので、
観月橋団地に住みたい方、団地リノベーションに興味のある方、
是非お気軽にお越しください。

お問い合わせは下記をチェック!

観月橋団地 現地案内所、モデルルームOPEN!

現地案内所 観月橋団地 12号棟106号室
営業 1月21日(土)以降の土日祝日 9:30~12:00、13:00~17:00
電話 075-604-6153

詳しい情報はこちら。
http://www.ur-net.go.jp/kansai/kangetsukyo/room.html

お問い合わせ先 UR京都営業センター 
営業 毎日(水曜休) 9:30~18:00
電話 075-255-0499

観月橋団地リノベーションのプロジェクトサイトはこちら。
http://www.ur-net.go.jp/kangetsukyo/

観月橋団地の詳しい物件情報、問い合わせはこちら。
http://www.ur-net.go.jp/kansai-akiya/kyoto/0800.html

【連載】観月橋団地再生ストーリー
第1回 昭和の団地にタイムスリップ
第2回 カマボコと51C型のすばらしさ
第3回 反転するキッチンの効果。
第4回 土間のある暮らし。
第5回 “挿入”と“継承”のリノベーション
第6回(最終回)新旧住民の交流会