text=大我さやか(OpenA ltd.)

東京都世田谷区にあった古い団地「烏山住宅」は、2014年「コーシャハイム千歳烏山」として生まれ変わりました。
その新築群の中に1棟、既存の住棟をリノベーションした建物があります。
今回は、生まれ変わったこの建物のストーリーをレポートします。


新築? かと思いきや、実はリノベーションされた住棟なのです。

団地1棟をまるごと大改造。

京王線「千歳烏山」駅から北へ徒歩5分。かつてここにあった団地「烏山住宅」は、4階建ての住棟が21棟も並ぶ大きな団地でした。1957年に建設された古い団地は、2014年春までに建て替えが完了し、今では新しい集合住宅が並んでいます。

その真新しい街並みの中に、1棟だけ他とは趣きの異なる住棟があります。それが今回ご紹介する11号棟。古い住棟をリノベーションした建物です。濃いグレーの外廊下が増築された建物は、すっきりとしてモダンな印象。

ではなぜ、この住棟だけが建て替えではなくリノベーションだったのか? そこには、JKK東京の団地再生への意気込みがありました。

「階段室型住棟」でのチャレンジ


かつてはこんなノスタルジックな団地が千歳烏山駅近くに広がっていました。

正式名称を「東京都住宅供給公社」というJKK東京は、都内で7万戸以上の公的賃貸住宅を管理している大家さん。管理物件は昭和30年代築の団地から、新築の集合住宅まで幅広くありますが、中でもこの烏山住宅のように築40~50年を迎える古い団地をたくさん持っているのが特徴です。

この年代の団地は、「階段室型住棟」と呼ばれる、1つの階段に各階2つの住戸が配置されたタイプが主流で、4~5階建ての建物が多く建てられました。また、間取りは和室中心の2K、3Kのプランがほとんどで、このままではなかなか若い人の暮らしに馴染みません。

これらの建物をどうしていくかは、全国の団地が抱える大きな課題。古い間取りをどうやって現代の生活にフィットさせていくか? そのひとつのトライアルが今回の11号棟のリノベーションです。


改修概念図。エレベーターを階段室に埋め込むことで、コストもスペースも効率化しています。

階段室型住棟のリノベーションには大きなハードルが2つあります。

ひとつはエレベーター。1つの住棟に複数の階段室がある住棟では、階段室ひとつひとつに何千万円もするエレベーターをつけるのはコスト的に難しい。物理的にも階段の踊り場にエレベーターが停まることになってしまい、半階分の階段が残ってしまいます。また、敷地や容積率(土地に占める建物床面積の割合)にゆとりがないと物理的に増築ができません。

もうひとつは住戸の面積です。コンクリートの壁で仕切られている住戸は、面積を大きくしたり、小さくしたりすることがなかなかできないのです。

この11号棟では、その2つのハードルを越えることにチャレンジしています。4つあった階段室の1つを解体。そこにエレベーターを設置することで、住戸の床と同じ高さに外廊下を造ることができます。こうすることで、階段室ごとにエレベーターを設置するよりも安く工事ができ、使いやすくなるのです。


上がビフォー、下がアフターの断面プラン。画一的だった階段室型住棟が、多様なプランで埋め尽くされています。

そして、2つ目の課題だった住戸面積の問題にも挑戦。エレベーター設置で不要になった階段室を住戸内に取り込むことにも取り組みました

その結果、改修前32戸あった約30平米の2Kの間取りは、約26~77平米で12のプランを持つ、23戸の住戸に生まれ変わりました。住戸間の壁を抜いてつなぐことで、1室の面積を広くでき、間取りも多様に。中にはメゾネットタイプの住戸も造られています。

選ぶ楽しさのある団地に


プランの一例。団地とは思えないほど、個性豊かなバリエーションが生まれました。(※画像をクリックすると拡大して見られます)

これらの実験によって生まれ変わった新しい住棟。そこには暮らし方にもさまざまな提案が盛り込まれています。

そして、今までの団地にはなかった面白いプランにもチャレンジ。
例えば、1階では元々地面から半層分上がっていた床を、地面と同じレベルまで下げることで、天井の高さを確保しました。さらに、庭付きのプランとすることで、開放的で自由度の高いプランを実現しています。


J typeは、高い天井と広い庭が魅力のプラン。1階をデメリットに感じさせない工夫がされています。

L typeも1階ですが、この明るさ。目一杯の高さを確保したサッシから日の光がリビングに降り注ぎます。

こんな風に、ここではご紹介しきれないほど多彩なプランで生まれ変わった11号棟。好みやライフスタイルに合わせて間取りを選ぶ楽しさが、ここにあります。

そして実は、建物全体は大きく2つに分けることができます。その2/3にあたる15戸は、サービス付き高齢者向け住宅。残り1/3の8戸が一般賃貸住宅、という構成になっています。

エレベーターを設置したことで高齢者にも住みやすくなり、また若者や家族向けの多様なプランが生まれたことで、多世代が住む建物へと生まれ変わっているのです。

多世代でシェアする共用空間


共用スペースには、コンクリートでできた水場と、非常時にかまどとして使えるベンチが。

多世代居住といっても、多様なプランがあるだけではありません。共用空間も魅力的に生まれ変わっています。

建物の北側には植栽に囲まれた庭があり、水場付きの大きなコンクリート製テーブルとベンチが置かれています。住人同士おしゃべりを楽しんだりして自由に使える屋外空間は、子どもからおじいちゃん、おばあちゃんまで皆でワイワイ集えるシェアスペースです。


共用リビングは、住人なら誰が使ってもOK。家具付きで1室まるごと使えます。

さらに嬉しいスペースがもう一つ。エントランスの横には、共用リビングという第二のリビングが用意されています。ここにはダイニングテーブルとソファーが備え付けてあるので、いつでも気楽に使えます。住居だけではなく+αの空間を使いこなすのが、この建物を楽しむポイントです。

この11号棟は、住棟がまるで大きなシェアハウスのよう。自分らしい生活を楽しみながら、共用空間では隣人との交流を楽しんで暮らす。程良い距離感と、いざというときに安心のコミュニティー。団地が元来持っていたそんな良さを残しつつ、団地暮らしの新しいスタイルを目指しているのです。

関連リンク:

東京都住宅供給公社 コーシャハイム千歳烏山多世代共生の住まいプロジェクトサイト
募集情報はこちら