text=北澤 潤(北澤 潤八雲事務所) photo=伊藤友二

太陽とねむる夜

共に時間を過ごせば過ごすほど、ホテルマンと宿泊客の垣根は消えていく。みんなでやってみれば何とかなるもので、太陽光の電力で光る「もうひとつの太陽」は空に舞い上がった。日が暮れて真っ暗の客室。ホテルマンたちの心配をよそに無事照明が灯り、女性陣が腕によりをかけた盛りだくさんのディナーが運ばれた。

満腹になって窓から外を見渡すと団地の夜空にたゆたう「太陽」がある。初めて訪れた団地を歩き回り、人と太陽にふれあったあと、宿泊客はどんな眠りにおちたのだろう。どんな夢をみたのだろう。

日常の原点に関わりなおす

太陽が空の先にあって、その遥か下に我々の生活がある。これはいたって普通のことである。普通なのだけれど、どうしようもなく不思議なことでもある。

《サンセルフホテル》の太陽から「太陽」をつくり、空き室に一泊だけの「生活」をつくる一連の活動は、そんな「当たり前になってしまった不思議」に対して、もういちどみんなで関わりなおしているようにも見えてくる。日常生活の中で、この一晩ほどの不思議に身を委ねる経験を我々はどのくらいできているだろうか。もしそんな機会がなければ、自分たちでつくればいい。井野団地に住んでいるホテルマンたちのように。

深夜になって客室の明かりも消えた頃、ゆっくりと「太陽」を地上に下ろした。光を失い、しぼむ。特別な夜の役目が終わる。

あとは本物の太陽が昇ってくるのを待つだけだ。

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北澤 潤八雲事務所

【連載】サンセルフホテル物語
第1回「ウソのようなホントの話」
第2回「うわさのしわざ」