text= 安田洋平(東京R不動産/Antenna.Inc)
そこは日常を忘れるワンダーランドあり、そして、僕らの住まい方の原点を辿る一日ツアーでもありました。


研究所に向かって歩いていると突如現れる108mの実験タワー。

スケルトンインフィル(SI)住宅を見学。

今回案内してくださった研究所の女性。知識の量がすごい。

空間の可変性を高めるべく、床下のスペースもうまく使っていて、そのサンプルも見ることができる。

電気ケーブルがテープ状になった「テープケーブル」。テープの上からモルタルを薄塗りすれば、テープが目立たず施工できる。

あれは何だ!? 赤白の巨大鉄塔

R不動産の仲間と、UR技術研究所へ行ってきた。

UR技術研究所とは、UR、すなわちかつての日本住宅公団であり現在は名前を変えて独立行政法人都市再生機構となっている機構(詳しくは団地の基礎知識「UR」の項をご覧ください)が「まちと住まい」の調査・研究・開発実験を行っている研究所である。

公団住宅(現・UR賃貸住宅)には、今では僕たちがあたりまえのように享受している住み方の様式の発祥となっているところがたくさんあり、そうしたルーツを知るうえでこの技術研究所は恰好の施設といえる。

予約をすれば施設見学できるんですね、ココ(※公開について詳しくはUR技術研究所のHPをご参照ください)。

簡単に言うと、大人の社会見学です。 

JRで八王子駅まで中央線に揺られたのち、さらに八高線という分線に乗り換えて「北八王子駅」に向かう。そこからさらに歩くこと10分。

いきなり視界に巨大な赤白の鉄塔が飛び込んでくる。あれ、なんだ? 見れば、塔のてっぺん付近にバルコニーみたいなものが乗っかっている。一緒に行ったメンバーによれば、「あれが超高層住宅実験タワー。あれを使って高層住宅の居住性の調査・検証をしてるらしいよ」のだとか。へぇー。研究としては理にかなっているのだろうが、なんかちょっとファンキーです。 

研究所到着。入り口をくぐると不思議な気分に襲われる。以前に大阪の万博記念公園を訪れたときに感じた感覚とどこか似ている、ノスタルジックな甘い匂いがする。まっすぐに未来だけを描こうとしてきた場所特有の匂いなのだろうか。そういえば赤白の実験タワーはどこかエキスポタワーを想起させなくもない。

また案内を本日担当しますと言って現れた同研究所の主幹の方と案内担当の女性が、これまた松本零士の漫画で出てきそうな雰囲気でびっくりする。

飽くなき実験精神がそこにあった

「本日は『KSI住宅実験棟』『環境共生実験ヤード』『すまいと環境館』、そして過去の名作集合住宅が移設されている『集合住宅歴史館』を最後に見て回りましょう」

という女性に誘われて、まず訪れた「KSI住宅実験棟」。

ここでは「SI住宅」の実験を行っている。Sとはスケルトン(建物の構造体)、Iはインフィル(内装・設備・間取り)の意味。耐久性の高い構造躯体に対し、インフィルは老朽化や住む人のライフスタイル変化に応じて柔軟に取り替えたりプラン変更できる。URの住宅ではこのSI住宅の仕組みを積極的に採り入れようと実験を重ねているのだという。

SI住宅方式、ちょっと外国の家みたいで、いいね。

モデルルームを見学。コンクリートの天井にとりつけられていた「テープケーブル」の技術がとりわけ印象に残った。その名の通り平たいテープ状になった電線を、両面テープを剥がして貼る要領でペタペタッと貼って電気配線をするという工法。配線のやり変えも簡単そうだし、天井にじかに貼れるので天井高をゆったり取って使いたい、という人には特に魅力的に映るのでは。   
へえ。こんなのあるんだ。

「すまいと環境館」では、集合住宅を膨大に管理し、言い換えれば毎日のようにリフォームとも接しているURならではの室内リニューアルテクニックが紹介されているコーナーが設けられており、その独自のすご早テクニックには多々感化されるところがあった。(実用化されているものもあれば、実験段階のものもあった)

熱したビニールの膜を使って、あっという間に天井の張り替えを行ってしまう「膜天井」。
間取り変更のときに重宝しそうな「間仕切りユニットパネル」。
「可変間仕切り家具(移動できて間仕切りの役目も果たせる家具)」。
「メカニカルファスナー(マジックテープの要領でフローリングの床を張ったりはがしたりできる)」。
既存壁紙を剥がすことなく壁紙の上に貼り付け施工できる「コアシート張り工法」。
などなど。

ふと思ったのだが、
URのリフォームって、内装をどんどんツール化してやり変えていく発想の仕方といい、
僕らが“内装を模様替え感覚で自由に行えるように変えていく”というコンセプトで展開しているサービス、「R不動産toolbox」と、どこか考え方的には相通ずるものがあるんじゃないだろうか?



左:インフィル(内装・設備)が変更・取替えがしやすいよう、配管も床下にたくみにまとまっている。
中:「すまいと環境館」リニューアル技術紹介コーナー。
右:即席で間仕切り変更が可能、「間仕切りユニットパネル」。